2007年7月16日 (月)

七月大歌舞伎

今回の大阪松竹座での歌舞伎は、昼夜とも関西を舞台とする作品が並んだが、そのうち、鳥辺山心中、身替座禅、女殺油地獄の3本を出し物とした夜の部を見た。

今回は、市川海老蔵が油地獄の河内屋与兵衛を演じるというのが楽しみであったが、けがで降板となり、片岡仁左衛門が代役を務めている。近松作の上方歌舞伎だけあって、東の海老蔵にとっては初役であったが、西の仁左衛門にとっては正に手の内に入った役である。

この与兵衛という役は、借金返済のためのお金欲しさに豊島屋の女房お吉に手をかけてしまうとんでもない悪役である。イヤホンガイドでも不条理殺人と言っていたが、仁左衛門演じるところの与兵衛は根っからの悪人ではない。甘やかされて育ったぼんぼんの若旦那が、やむにやまれぬようになって凶行に及んだという感じがする。仁左衛門が実になよっとしたつっころばしを演じているので、河内屋で両親をたたくところも、家庭内暴力というよりも、中学生の反抗期程度にしか見えない。凄惨な殺しの場も、鬼気迫る感じというよりも、油にまみれて転びまわる姿は、ドリフのコントでも見ているかのようである。

このように見るとこの与兵衛という人物は、他の近松の心中ものの主人公と代わるところはない。他の人物が自ら死を選ぶのに対し、与兵衛が人を殺めたという違いだけである。これを海老蔵が演じていたらどうなっていたかを想像してみる。元から仁左衛門の監修だったので基本は変わらないかもしれない。でも、海老蔵には、どこか頭の線の切れた殺人者を演じることのできるオーラを持っているように思われる。このオーラは仁左衛門には残念ながらない。真に背筋を凍らせるような与兵衛を見られたかもしれないと思うとしごく残念である。

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2007年1月 7日 (日)

初春大歌舞伎

今年の最初の観劇は、大阪松竹座の新築十周年を記念した歌舞伎公演です。見所は、何と言っても史上初の市川団十郎と坂田藤十郎との共演。この2大名跡が襲名されたために実現しました。

私が見た昼の部では、勧進帳で共演が実現しました。団十郎の弁慶、藤十郎の義経に海老蔵の富樫という豪華メンバーです。さすがに団十郎さんの家の芸と呼ばれる役だけに堂に入ってぴたりとはまっています。昨年の病気休演の影響を心配しましたが、元気になられたようでよかったです。ただ、まだ体力があって豪快に弁慶を演じる年代から、何度も舞台を踏んできた経験によって弁慶を大きく見せていく芸で見せる段階への移行期のような感じがしました。若い海老蔵のすらっとした富樫と比べると、団十郎がやや小さく見えたのが寂しさを感じました。

さて、江戸荒事の代表作が勧進帳ならば、上方和事の粋を感じさせてくれたのが封印切です。東西の名優の共演を楽しむというよりは、勧進帳と封印切のそれぞれで、東西の違いを堪能しました。あえて東西を対比すると、スーパーマンのような弁慶よりも、つい意地から他人の金に手を出してしまう亀屋忠兵衛のような人間的な人物に感情移入してしまいます。弁慶と富樫の山伏問答も言葉の芸ならば、忠兵衛が八右衛門と言い争いをするのも感情の伴った見事な言葉の応酬です。正月早々暗い芝居ながら、ずっしりと余韻の残る見事な一幕でした。

この2作の前に演じられたのが毛谷村。藤十郎の息子の翫雀、扇雀の出演ということで、団十郎、藤十郎両家の親子共演というめでたい上演になりました。

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2006年9月10日 (日)

十八代目中村勘三郎

びわ湖ホールにて,松竹大歌舞伎~十八代目中村勘三郎襲名披露公演を見る。昨年勘九郎改め勘三郎となられたが,その全国巡業公演の一環である。

勘三郎さんが演じられたのは,身替座禅の山陰右京という役。初めて見る演目であるが,これがなかなか楽しい。もともとは狂言の花子という難曲を歌舞伎に置き換えたものである。せりふ回しなども狂言の言葉遣いを直接取り入れたところもある。そのためか,最初は狂言のテイストが強いかなと感じたのだが,進むにつれ歌舞伎の特徴が一層浮き彫りになってくる演目である。

というのは,狂言は,余計なものをそぎとっていく芸術である。言葉は最小限に,動作もシンプル,衣装も作品による違いはほとんどないという点から,作品の骨格だけが残ったような感じがする(そのために私のような素人には,どれも同じように見える。)。

一方,歌舞伎の身替座禅は,歌舞伎ならではの色彩感ある衣装,明確な登場人物の性格付け,華やかな音楽など歌舞伎を見る楽しみをどっと盛り込んでくれる。

上演について言えば,中村勘三郎はさすがなりと言う感じ。軽い感じの役柄ながら,コミカルさだけでなく,色気を感じさせる演技は見事である。奥方の坂東弥十郎もぶさいくでわわしい嫁を好演。こんな奥さんがいたら確かに怖いだろうが,同時に愛らしさも感じられる。

前半の廿四孝十種香は,中村扇雀の八重垣姫にはもう少し愛らしさが欲しいが濡衣の中村芝のぶが代役ながら良かった。

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